神 様はこの世をつくられ、わたしたち人間をつくってくださいました。どうしてだと思いますか。それは、人間を愛するためです。神様はわたしたち人間を愛する ために作ってくださり、今も愛してくださっています。神様はこの世界全体も愛しておられるので、この世界に愛が満ち溢れてほしい、そう願っておられます。 テレビやインターネットを見ると、悲しいニュースが流れています。人が人をだまし、にくみ、自分だけが得をしようとして生きているかのようなニュースばか りです。あるいは、ひとりぼっちで誰も助けてくれないので、人を嫌いになったり、自分のことを嫌いになったりした人が事件を起こしているようにも思えま す。けれどわたしたちが目にするニュースは世界のすべてを伝えるわけではありません。神様がわたしたち人間を愛してくださっていること、これは世の中の ニュースでは知ることができません。世の中には悲しいことがあるけど、神様の愛は、今わたしたちの周りに、目の前にあるのです。

これはわたしが牧師になる前に通っていたアメリカの教会の牧師が話してくれた話です。その子の名前はパンディ。ぼろぼろの人形です。髪の毛が抜けてほとん どなく、片方の腕もとれてしまっていました。爪もずいぶん抜けて体もすかすかになっていました。まだパンディが新しくて若かったころの話です。パンディは その牧師の妹のキャシーのお気に入りの人形でした。キャシーはパンディを愛していました。キャシーはパンディといつも一緒にいました。ご飯を一緒に食べる 時も、寝る時も、お風呂に入るときも。キャシーはパンディを愛してやまなかったのです。お父さんもお母さんもお兄さんも妹のキャシーを愛していました。家 族ですから。そしてキャシーを愛するということはパンディを愛することでもあったのです。パンディは家族の一員でした。

こんなことがあったそうです。この家族が夏休みに旅行に出かけました。何百キロも離れた高原へ車で出かけたのです。もちろんパンディも一緒でした。旅行が 終わった帰り道、何百キロの道を戻って来て、もう自分たちの住む町に入ろうかというところで、キャシーはパンディがいないことに気づきました。どうしま しょう。この家族には選択肢はひとつしかありませんでした。そこから引き返して、何百キロと離れた高原のホテルに戻ったのです。家族なのだから当たり前の ことでした。「新しい人形を買えばいいや」とか、ホテルの人に頼んで宅配サービスで何日か後に送ってもらおう、などとは決して考えなかったのです。パン ディを見つけたこの家族は、もう一度家に向かって車を走らせました。

キャシーがパンディを愛したので、パンディは価値あるものになりました。キャシーがパンディを愛していたので、キャシーを愛するみんなにとっても、この人 形が大切なものになりました。キャシーを愛する人は、自然にパンディを愛するようになりました。パンディが若かった頃、キャシーは彼女を愛していました。 かわいいパンディが大好きだったのです。そのうちパンディは年をとってぼろぼろになりました。キャシーはそれでも彼女を愛しておりました。キャシーは単に パンディがかわいかったので愛したのではありませんでした。そうではなくて、キャシーが愛していたのでパンディはかわいく、美しいのです。

わたしたちは、知らない間に、価値があると思えるものしか愛せなくなってしまいました。人のことを、「使えるかどうか」――いやな言葉です――で判断して しまいます。友達になるのにメリットがあるかどうかで判断します。そしてまた自分のことも、愛されるためには価値がなくてはいけない、と思うようになって しまいました。わたしたちは、愛されるために、自分には何らかの価値があるものだと示すために、一生懸命何かをしようとします。何かになろうとします。何 もできない人は価値がない、愛されない、と思っているからです。けれども、パンディを愛したキャシーとその家族が教えてくれるのは、愛することに理由はな い、ということです。価値があるから愛するのではなくて、愛しているから・愛されているから価値があるのです。

わたしたちはみんなぼろ人形です。破れ、傷があり、毛が抜け、中身が飛び出しています。愛することがうまくできなくなってしまいます。自分が気持ちいいか ら自分が得するから、という理由で何かを愛そうとします。あるいは普段は、愛していると思っているのに、ちょっと嫌な思いをしただけで愛することをやめた りします。そして、愛されることがうまくできなくなっています。愛されるために、何かをしなくてはならないと思っています。自分がすることに価値があると 証明しようとやっきになり、かえって人と自分を傷つけます。愛しているという証拠を見せようとし、愛されているかどうか、証拠を見たいと思って人を試しま す。

わたしたちは、ぼろ人形です。けれども、神様に愛されているぼろ人形です。神様はわたしたちがぼろ人形であることをご存知の上で、愛してくださるのです。 理由はありません。わたしたちはぼろぼろで、かっこよくもかわいくもないかもしれません。人から見ると何の価値もないかもしれません。それでも神様は愛し てくださいます。神様に愛されるために何かをする必要はないし、立派な人である必要もないのです。愛されているかどうか、神様を試す必要もありません。 今、自分はぼろ人形だけど、神様の目には愛すべき一人の人として映っている、ということがすべてなのです。神様は、最初に人をお作りになったとき、「それ は極めて良かった」とおっしゃいました。神様の目にはわたしたちは良いもの、として写っているのです。わたしたちは、神様のまなざしの外に勝手に出て行っ て、ぼろぼろになってしまったのです。それでも神様はわたしたちを愛してくださいます。

ある人がイエス様のところに来て聞きました。「イエス様、わたしたちが幸せに生きていくためにどうしても必要なものは何ですか」。イエス様はお答えになり ました。「それは愛すること、ということだ。神様を愛し、隣人を愛しなさい。自分のすべてをかけて、一生懸命神様を愛しなさい。そして、自分と同じように 隣人を愛しなさい」。

神様と人を愛することが、もっとも良い生き方、幸せな生き方、とイエス様はおっしゃいます。それが神様が喜んでくださる生き方だからです。

わたしたちは、愛されているよいもの、美しいものとして生きることができます。そして、愛されているからこそ、愛することができるのです。「心を尽くし、 精神を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい」。主イエスが、わたしたちに、神を愛しなさいとおっしゃるとき、まちがいなく、神様ご自 身が「わたしは、心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くしてあなたのことを愛している。だから、あなたも愛せるのだ。喜んでわたしのことを愛してほしい」 とおっしゃっているはずです。「隣人を自分のように愛しなさい」と主イエスがおっしゃるとき、まちがいなく、あなたはまず自分のことを愛しなさい、とおっ しゃっておられます。あなたは自分のことを愛しているはずだ、自分を愛してよいのだ、と主イエスはおっしゃるのです。神様に愛されているからです。自分を 愛することができる人は、人を愛することがどういうことかもわかるはずです。

キャシーはパンディを愛していました。ぼろ人形のパンディです。そして、キャシーのことを愛していた家族はパンディのことも愛しました。神様は、今みなさんの隣にいる人のことを愛しておられます。神様を愛するわたしたちは、神様が愛する隣の人を愛して生きるのです。

わたしたちのぼろぼろさは、人形のパンディよりはるかにひどいものです。愛してくださる神様を無視し、神様を嫌いになったりするほどぼろぼろなのです。け れども、イエス様は、神様がこのぼろ人形のわたしたちのことを愛しておられたことをよくご存知でした。父である神が愛しておられるのだから、イエス様もわ たしたちを愛してくださいました。神様のところに帰ってほしいと、十字架によって、わたしたちを神様にふさわしいものとしてくださいました。それが十字架 です。心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くして神を愛し、人を愛してくださったのはほかならないイエス様だったのです。

わたしたちの愛は、これからも不十分であり続けるかもしれません。未だぼろぼろ人形だからです。わたしたちの愛は途中でなくなったり、愛という名前を使っ て支配したり、傷付けたりすることもあるでしょう。それでもわたしたちは神様と人を愛していきたい。そのために、神様はこうして教会をたて、礼拝を備えて くださいました。この礼拝は、毎週、罪を犯すたびに、わたしたちが神様に愛されていることを思い出させ、人を愛する道にもう一度わたしたちを引き戻してく ださるために、イエス様が準備してくださっているのです。

今日はペンテコステを祝う日です。イエス様の一二人のお弟子さんたちに聖霊を与え、教会がつくられた記念日です。神様は、愛され、愛し合うことをこの世に 伝えるために教会をつくるようにと、お弟子さんたちに命じられ、それができるようにと聖霊をくださったのです。聖霊によって、わたしたちが神様を愛し、互 いに愛し合って生きることができます。聖霊の力によって、教会を通して主イエスの愛が世界中に広められたので、この藤沢北教会もここに立ち、歩んでいるの です。神様の愛はすでにここにあります。神様に愛されているから、神様を愛し、互いに愛し合いながら歩んでいきましょう。