| クリスマスおめでとうございます！ 「おめでとう、恵まれた大よ、主があなたとともにおられる」。これがクリスマスのメッセージです。イエス・ギリストがあらゆる人のために恵みとして来てく ださいました。特別な大だけにイエス・キリストが来てくださった、というのではありません。善い行いをしたからとか、いい人間だから、というような理由で はありません。まじめである必要もない、ただただ、神が恵みとして、わたしたちにそのひとり子イエス・キリストを送ってくださったのがクリスマスの出来事 です。「おめでとう」。これは単なる決まりことばではありません。本当におめでたいのです。この言葉は、「喜びなさい」と言い換えてもいい言葉です。クリ スマスは本当に喜びなのです。わたしたちは、神が「おめでとう」とおっしゃり、このもっとも大きなプレゼントを目の前に差し出してくださったことをもう一 度確かにしたいと思います。 クリスマスは神からの恵みです。イエス・キリストそのお方が恵みなのです。ところで、恵みっていったい何でしょうか。 ここにマリアという女性がいます。マリアはガリラヤ、エルサレムなんかに比べれば田舎です。このガリラヤ地方のナザレという町に住んでいました。彼女は婚 約をしていました。結婚の約束をしていたのはヨセフという人でした。ダビデという王の家系だそうですが、おそらく当時は王様の家系という人たちはたくさん いたと思われます。ヨセフは特別にお金持ちであったり、お屋敷に住んでいたりしたわけではありませんでした。ヨセフは普通の大工さんだったのです。 マリアは１４歳。わたしたちにとってはとても結婚するような歳とは思えませんが、この時は１２歳が成人式でしたから、女性が１４歳で結婚するということは 普通のことでした。田舎で暮らしていた、ほかの人と同じように若くして結婚しようとしていたこのマリアもまた、普通の女の人だったのです。 そのマリアに、天使が現れて言いました。「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる」。平凡な生活をしていた普通の人マリアには、このことが理 解できませんでした。この挨拶はいったい何のことかと戸惑い、考え込むのです。「主があなたと一緒にいてくださる、おめでとう」。確かに、いきなりそう言 われて、戸惑うのは当たり前かもしれません。何のことかわからない方が当たり前かもしれません。天からの神のメッセージは突然来ます。はじめはその内容は 人間にはすぐには理解できないものなのです。 けれども天使は続けます。たたみかけると言ってもいいほどです。「マリア、恐れることはない。あなたは神から恵みをいただいた。あなたは身ごもって男の子 を産むが、その子をイエスと名付けなさい。その子は偉大な人になり、いと高き方の子と言われる。神である主は、彼に父ダビデの王座をくださる。彼は永遠に ヤコブの家を治め、その支配は終わることがない」。ますますわからない。どうも、天使は大きく二つのことを言っているようです。一つはマリアが身ごもって 男の子を産む、ということ。もう一つは、その子が神の子で、王様になる、ということです。人は、自分が全く理解できないことは聞き流してしまう、そういう 行動をとると思います。マリアは、一つ目の、男の子を身ごもって、産む、というところにだけ何とか答えることができました。「どうして、そのようなことが ありえましょうか。わたしは男の人を知りませんのに」。今は婚約中の身です。夫となるヨセフとはまだ結婚しておらず、一緒に住んでもいないのです。どうし て子どもができるのでしょうか？ 当時としてはしごく当然の疑問です。しかしマリアは天使が言った二つ目のことは全く無視してしまいました。天使ももう少 し丁寧に話してくれてもよさそうなものです。けれども天使はきっと長々と説教するのが好きではなかったのでしょう。それでも天使はマリアにはっきり言いま す。「大丈夫だ」って。「聖霊があなたに降り、あなたを包んで神の力が働くから心配しなくていい」って。神は遠くから、コマを動かすように人間を動かすの ではありません。わたしたちのところまで下りてくださって、わたしたちを包み、あるいはわたしたちの中に入って、わたしたちと一緒に生きてくださるので す。それが聖霊です。天使は言いました。聖霊によって身ごもるのだから、その子は聖なる方で、神の子なのだ、と。ここにいるわたしたちは聖霊によって身ご もる、ということはありません。けれども、聖霊の働きによって、自分では思いもよらなかったことをする、ということが起こるのです。たとえば、私がここに 立ってこうして説教していることはあきらかに聖霊の働き以外の何物でもないはずです。そうでなければこんなことはしていないでしょう。逆に、どうしてこん な人がここで説教を、と思っていらっしゃる方もいるかもしれませんね。どうか私か説教をするということが聖霊の働きであることを信じ、より働いてくださる ように祈ってください。みなさんも思い当たることはないでしょうか。こうして教会で礼拝をしているなんて。あるいは洗礼を受けてキリスト者として生きるな んて。自分の人生を振り返って、昔の自分からすればとうてい理解しがたいことかもしれません。あるいは、小さいころから教会に来ているから当たり前だ、と いう人もいるかもしれません。けれども、それもまた聖霊の働きです。自分の思いを超える、あるいは自分の素直な気持ちに従う、どちらもそれが神に向かうよ うに働くのが聖霊の働きなのです。 天使は、マリアが理解できるように、出来事を伝えます。「あなたの親戚のエリザベトも、高齢だが、男の子を身ごもっている。信じられるか？ 信じられない かもしれない。けれどもこれも神のみ業なのだ。神にはできないことは何もない。あなたは、今は自分の身に起こったことが信じられないかもしれない。けれど も神には何でもできる」。 これにマリアはこう答えました。「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように」。わたしたちはなんでも自分でやりなさい、自分で考 えなさい、と言われてきました。今、言う側になっている人もいるかもしれません。けれども、このマリアがしたことは神の言葉により頼んで、神がおっしゃる 通りになりますように、と神の言葉にお任せすることでした。マリアは、自分が男の子を産むこと、その子が救い主になること、そのことは完全に理解できたわ けではありませんでした。けれども、すべてを神にお任せすることができました。「はしため」というのは奴隷とかしもべ、という意味です。「わたしは神様の しもべです。わたしに起こることが、神様のお言葉どおりになりますように」と祈ったのです。 マリアは特別に頭がよかったり教養があったりしたわけではなく、特別に信心深かったというわけでもないのです。けれども、神が、聖霊が働かれて、救い主の 母となる役目を与えられました。なぜか？ それはマリアにも、そして私たちにもわかりません。ただ一つ言えることは、神がマリアのことを選ばれた、という ことです。このことを恵みとして与えられた。この事実だけです。だから神はマリアに聖霊を降らせ、神の力を働かせられることを約束されました。マリアは自 分では信じられなくても、神にはできないことはない、ということにより頼み、ただ、神を信じる信仰を与えられた、そのことを受け入れただけなのです。マリ アは祈って、この与えられた信仰のままに、恵みの中に生きていこうと決断することができたのです。 こうして神のしもべとして召された、マリアの人生は大きく変わりました。けれどもそれは決して、この瞬間に、何か「神の人」のような素晴らしい人になった わけではありません。マリアはこの先の人生、イエスの母として生きたためにかえって大変な思いをしたというべきでしょう。たしかに、ヨセフは結婚前にみご もった自分を訴えたり、離縁したりせず、迎え入れてくれました。けれども、人口調査のためにヨセフの実家ベツレヘムまで身重で旅をしなくてはならず、つい た先では宿も見つからず、挙句の果てに家畜小屋で出産するはめになりました。その先のマリアの人生も、単に大エヨセフの妻として、一人の男の子の母として 平凡に生きる、そういう生き方ではなくなってしまいました。思いもよらないことを引き受けてしまったのです。親は、こどもの成長を願います。けれども、単 に一人前になって一人で生きていく、新しい家族を作る、マリアは、自分の子イエスがそのようには生きなかった現実に向き合うことになるのです。マリア自身 はあくまでも平凡な母親だったに違いありません。ですから、イエスという自分の子が神の子メシアとして生きられるということを完全には理解できなかったで しょう。ある時は自分の子であるはずのイエスに信仰に関して叱られるようなことがあり、またある時は、血のつながりのある家族よりも、自分の弟子の方が家 族だと言われ、突き放されるような思いをしたに違いありません。何よりも、愛する子であるイエスが苦しみを受け、人からばかにされて、十字架刑にされてし まうのです。そのような人生であったけれども、彼女は聖霊が働いてくださる人生を歩みました。「お言葉どおりこの身になりますように」という祈りをマリア は人生で何度も祈ったに違いないとわたしは思います。主イエスが天に上げられた後、弟子たちが集まって熱心に祈っていた中にこのイエスの母マリアもいたこ とが使徒言行録には記されています。 このマリアを捕えた神の恵みは、わたしたちをも捕えてくださいます。平凡な人生を歩んでいるつもりだった、あるいは自分は特別だと思っていた、どっちにし ても、人生に突然主イエスが飛び込んで来られた。自分のことを平凡と思っていようが、特別だと思っていようが、神がどうして主イエスを自分にくださったの か、それは自分には理解できない。人にはその理由は知らされないからです。そして、それが恵みです。 聖なる者、神の子が与えられました。そのお方はわたしたちの本当の王となられた方です。わたしたちは王のはしため、しもべです。わたしたちは王の言葉にこ そ生きるのです。それはこの世でちょっと力を持っているだけの王ではいけません。あるいは、結局は自分しか信じられないといって自分を王にしてもいけませ ん。そうではなく、神が王座をくださった、神の子だけが本当の王なのです。 神があなたに恵みを与えてくださる。それが本当の王様、イエス・キリストです。ひょっとすると、意味が分からない、とおっしゃる方もいるかもしれない。い え、長く教会に通っていても、あるいはわたしのように聖書の勉強をしても、その本当の意味を完璧に理解していないだろうし、理解することはできないのかも しれません。 ですから、私たちも、神様にお任せしたいと思います。そのためにお祈りします。主の祈りでは「み心が天になるごとく地にもなさせたまえ」と祈ります。「神 様の思いがわたしたちのところにも実現しますように」と祈るのです。わたしたちは神様のことがすべてわかるわけではありません。けれども、神様にお任せす ることができるのです。神様がおっしゃる通りになりますように。 クリスマスは神がイエス・キリストをわたしたちひとりひとりに与えてくださった恵みの出来事です。「きみのためにわたしの大切な子、イエス・をプレゼント したい。どうか受け取ってほしい」。この恵みをそのまま受け取るのが本当のクリスマスです。「お言葉どおり、この身に成りますように」。 クリスマスおめでとうございます。 （2016年12月25日クリスマス主日礼拝＜教会学校と合同＞説教）
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